遺産に不動産がありますが、どのように評価したらよいでしょうか?
遺産に不動産(土地・建物)がある場合、その評価額をめぐって争いになることがあります。
ではどのように評価するべきなのでしょうか。
1 建物について
建物については固定資産税評価額によることが多いです。
もっとも、遺産である土地上に古い建物が建っている場合があります。この場合、建物自体にほとんど価値がなく、いずれ建物を解体しなければならない場合もあります。こういった場合には、土地を更地評価して、土地の更地価格から建物の解体費用を控除して土地のみの価格として評価することもあります。建物の解体費用がいくらになるかは、建物の種類によって変わってきますので、解体業者等に見積りをとることが必要になります。
2 土地について
土地については、時価、地価公示価格、地価調査価格、路線価、固定資産税評価額など、さまざまな基準が登場します。そのため土地をいくらと評価するかで争いになるケースが多くなります。
①時価:実際の取引の価格や裁判所による認定価格です。
②地価公示価格:国土交通省が公示する毎年1月1日時点での標準地の価格。一般的な土地売買の価格の参考とされます。
③地価調査価格:都道府県知事が公示する毎年7月1日時点での標準値の価格。公示価格を補完するものとなります。
④路線価:相続税や贈与税にかかわる土地の評価額を算定する際に用いられます。地価公示価格の80%程度が目安とされています。
⑤固定資産税評価額:市町村が3年ごとに算出する価格で固定資産税等の算定の基準となります。地価公示価格の70%程度が目安とされています。
不動産、特に土地の評価が問題になる場合は、一般的には、まずは不動産業者に無料で査定をしてもらい査定金額を参考にします。不動産業者の査定書は、あくまで業者による時価の予想価格であり、業者によって価格にばらつきがあります。そのため、できるだけ費用を掛けたくない場合、当事者双方で査定書をとって、双方の査定書の間の金額で合意する、ということも有りますが、ばらつきが大きい場合にはあまり参考になりません。
固定資産税評価額については、地価公示価格の70%が目安とされており、最も低い評価額となるので、山林などの価値に乏しい特殊な土地でない限りは、固定資産税評価額そのままで算定することは少ないと思います。また、3年ごとに更新されるので直近の価格状況を反映していない場合もあります。
逆に、買い手のつかないようなほとんど価値のない土地であっても、固定資産税評価額より低くあるいは無価値として算定することはほぼ無いと思います。
路線価(あるいは路線価をベースに算出した相続税申告時の相続税評価額)については、早期解決の観点からは当事者間でその価格で合意することも有ります。
また、路線価は地価公示の80%が目安とされているので、割戻し(路線価÷0.8=路線価×1.25)をして、その金額で算定することもあります。
地価公示価格や地価調査価格は十分信用に値する価格と言えます。ただ、あくまで基準点となっている土地についての評価であり、問題となっている土地そのものの評価ではないので、基準点となっている土地と問題となっている土地が離れてたり、土地の用途等が異なる場合には説得力が弱くなります。
また、地価公示価格、地価調査価格、路線価、固定資産税評価額といった公的価格と時価との間に解離が生じることもあります。地価公示価格や地価調査価格といった公的価格は税金等の算定の基準となるため安定性が求められます。そのため、例えば時価が急激に上昇している場合などに、地価公示価格や地価調査価格の変動がそれに追いついて行かない(あるいは政策的に大きく変動させない)場合などに、乖離が生じます。
3 まとめ
以上のいずれかの基準によって決定することになりますが、それでも話がまとまらない場合には不動産鑑定士による不動産鑑定、そして最終的には裁判所の審判や判決によって決めることになります。不動産鑑定も、当事者が個別に不動産鑑定士に依頼をする私的鑑定と、調停や裁判手続で裁判所が選任した不動産鑑定士が鑑定を行う裁判所鑑定とがあります。
私的鑑定の場合は、双方が納得できる内容ならよいですが、相手が納得せず、相手からも私的鑑定がなされ、結局いずれを採用するかで決着がつかず、裁判所鑑定をせざるを得ない場合もあります。私的鑑定だけでも、最低でも数十万円(対象物件によってはそれ以上)かかります。相手から私的鑑定がされた場合は、少なくとも自分の側でも不動産鑑定士に相談をして相手の私的鑑定の内容について当否を検討する必要があります。また、裁判鑑定でも私的鑑定と同じくらいの費用がかかると考えたほうが良いと思います。
不動産の評価については、不動産を取得する立場か、代償金や遺留分侵害額を支払う立場か、あるいは費用対効果や早期解決を目指すか否か、によってどの基準によるべきか異なってきます。
このように難しい問題がありますので、経験豊富な専門家への相談がお勧めです。