相続財産の使い込み(使途不明金)の問題
Q:相続財産が使い込まれているようです。どうしたらよいですか。
A:使い込みがあったかどうか明らかではない場合
まずは被相続人の預金通帳の履歴を取り寄せるなどして、不明朗な支出がないかを調べます。
それでもはっきりとしない場合には、遺産分割においては使い込みはないものとして扱うことになります。
どうしても納得がいかない場合は、遺産分割ではなく、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟や不当利得返還請求訴訟、遺産確認請求訴訟で争っていくことになります。
損害賠償請求と不当利得返還請求はいずれも主張することができます。
もっとも、不法行為の場合は不法行為時から遅延損害金を請求できますし、悪性の高い使い込みといえる場合にはそのことを明白にするために、あえて損害賠償請求を選択する場合もあります。不法行為に基づく損害賠償請求の場合、判決になれば原告の弁護士費用(請求金額の10%程度)も認められます。
A:使い込みが判明した場合
①相続開始前の場合
まず相続人に贈与の意思(被相続人の承諾)があったかどうかが問題となります。贈与の意思があったといえる場合には特別受益の問題が生じるからです。
特別受益といえる場合には原則として遺産への持ち戻しをすることになります。
特別受益といえない場合、被相続人が使い込みをした相続人に対して有する損害賠償請求権または不当利得返還請求を、相続人が相続することになるので、それを行使することになります。
②相続開始後の場合
相続人が無断での使い込みを認めた場合、遺産を先取りしたとの前提にて話し合いを進めます。この点については民法の改正により、遺産を使い込み等の処分をした相続人以外の相続人が処分された遺産を遺産に組み込むことに同意した場合は、処分された遺産が遺産分割時に存在しているとの前提で遺産分割を行うことができるようになりました(改正民法906条の2)。
話し合いで解決できない場合、あるいは、相続人が無断での使い込みを認めない場合、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟、不当利得返還請求訴訟、遺産確認請求訴訟で争っていくことになります。
Q:相続人の一人が相続開始後に遺産である預金を解約して現金にしてしまい、渡してくれません。どうしたらよいでしょうか。
A:損害賠償請求または不当利得返還請求をすることになります。また改正民法906条の2により遺産に含めて遺産分割をすることもできます。
預金については最高裁平成28年12月19日決定によって遺産であるとされましたが、解約されると遺産である預金債権自体が消滅することになります。
そのため、現金として持っていても遺産分割を求めることができません。
預金は準共有になるので、準共有持分権侵害を理由に不法行為に基づく損害賠償請求訴訟、不当利得返還請求訴訟、遺産確認訴訟等の民事訴訟等で支払を求めていくことになります。
この点については民法の改正により、遺産を使い込み等の処分をした相続人以外の相続人が処分された遺産を遺産に組み込むことに同意した場合は、処分された遺産が遺産分割時に存在しているとの前提で遺産分割を行うことができるようになりました(改正民法906条の2)。
Q:共同相続人の一人が預金を引き出して使い込んでいるようなので損害賠償請求をしたいのですが、認められるでしょうか。
A:実際の争点は次の3点となります。
1 誰が引き出しているか
被相続人が自分で引き出している場合には違法とはいえなくなります。そのため、まずは共同相続人の一人が引き出し行為をしたことを立証する必要があります。この点については払戻伝票等の筆跡、金銭の移動状況、被相続人の健康状態、預金通帳の管理状況などの各種資料に基づいて立証することになります。
相続人の一人による引き出しについて争いがない、またはその立証ができた場合には、実務的には引き出しをした相続人がその使途等を立証(説明)することになります。
2 引き出し権限があったか
次に、共同相続人に引き出し権限があったか否かが問題となります。
被相続人の同意があったり、もともと共同相続人に引き出す権限があったりした場合にはいくら金額が大きくても違法とは言えません。この点は引き出しをした共同相続人において権限があったことを立証する必要があると考えます。
被相続人の同意を立証できない場合でも、被相続人のために使用していれば、推定的承諾といった理由により引き出しは正当とされます。
3 何に使用されたか(使途)
引き出された資金の使途も問題になります。共同相続人が使途について不十分な説明しかできないとなると、権限の範囲を超えた違法な引き出しとされる可能性が高まります。また、使途が明らかになってもその金額が多額に上る場合には相当な額を除いた部分が違法な引き出しとされる可能性があります。
Q:どのような資料を集める必要がありますか。
A:取引履歴、医療記録、介護記録、払戻請求書といった資料が必要です。
まずもっとも基本となる資料は口座の取引履歴です。取引履歴をみれば出金の内容や金額がわかります。入出金した支店、ATMによる取引かどうか(50万円を超えるかどうか)、がわかります。例えば、それまで窓口での取引だったのかある日からATMでの取引に変わっている場合には、本人以外の者が入出金をしている可能性があります。場合によってはATMの防犯カメラの映像が残っていることもあります(実際に弁護士法23条の2照会を利用して、ATMの防犯カメラの映像の記録を取得できたケースがあります)。
医療記録を見れば、本人が入院中であるかどうか、入出金できる状態であるかどうか、引き出しに関する同意をできる状態であるかどうか、といったことがわかります。介護記録、要介護認定に関する記録(認定結果通知書、認定調査票、主治医意見書)も同様です。
医療記録や介護記録については、相続人間の紛争に巻き込まれることをおそれて開示に応じてくれない施設もあります。そういった場合には裁判外での任意開示は困難ですので、弁護士会を通じた弁護士法23条の2照会、あるいは、訴訟提起をして裁判所を通じた文書送付嘱託の手続をする必要があります。
要介護認定に関する記録は、開示期間は直近5年程度であることが多いと思われます。
金融機関への払戻請求書や送金依頼書といったものは自筆で記入してあるため、本人が払戻等をしたかどうかがわかります。もっともこれらについても開示には応じてくれない金融機関もありますので、弁護士会を通じた弁護士法23条の2照会、あるいは訴訟提起をして裁判所を通じた文書送付嘱託の手続をする必要があります。
なお、保管期間は10年としている金融機関が多いです。
Q:遺産分割調停で使途不明金の問題を主張、解決できますか?
A:遺産分割調停で使途不明金の問題を主張することはできます。もっとも、使途不明金の問題は本来民事訴訟(地方裁判所)にて解決するべき問題であり、調停や審判(家庭裁判所)では解決できません。
調停で使途不明金について主張したとしても、相手相続人がそれを認めなければ、使途不明金問題の点で合意できず調停不成立となり、使途不明金問題を除いて遺産分割審判がなされることになります。
別途民事訴訟を提起した場合に、使途不明金について知らないと主張していた相続人が生前贈与を認めた場合、特別受益になる可能性があります。しかしこの時点で既に遺産分割審判が確定してしまっていると、特別受益を考慮した遺産分割もできません。
また、遺産分割調停が長引く間に使途不明金について消滅時効が完成してしまうこともあり得ます。
そのため、遺産分割調停で使途不明金の主張をすることは得策ではありません。
使途不明金問題を解決したい場合には、遺産分割に先立ち、まずは使途不明金についての民事訴訟を提起し、解決しておく必要があります。仮に民事訴訟の中で和解ができる場合には、遺産分割の件も含めて和解することも可能です。
なお、細かい話になりますが、民事訴訟の和解の中で遺産分割の合意をすることはできませんので、和解条項の中で、訴訟外において別紙の内容の遺産分割協議を行う、としたり、あるいは訴訟係属中に訴訟外で遺産分割協議を成立させ、その後訴訟を取り下げる、といった方法もあります。