相続放棄・限定承認に関するQ&A

相続財産には、現金、不動産、預貯金、株式などのプラス財産だけでなく、借金等のマイナスの財産も含まれています。

そのため、マイナスの財産が、プラスの財産より多い場合は、相続してもマイナス財産だけが残ってしまうことになります。そこで、相続人は、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も含めて権利義務の承継を全て拒否することを選択できます。これを相続放棄といいます。

より正確には、相続には、単純承認、限定承認、相続放棄の3種類があります。

Q:単純承認とは。

A:被相続人の財産の一切を継承する方法です。

この場合は特別な手続きをする必要はありません。

Q:限定承認とは。

プラスの財産が多いのか、マイナスの財産が多いのかが分からない場合に、有効な方法です。相続で得た財産の範囲内で借金等の債務を返済する、という条件付きで相続する方法です。

限定承認の手続きは、相続開始を知った時より3か月以内に、家庭裁判所に限定承認の申述を行います。

限定承認のデメリットは、公告をしたり、債権者へ催告をしたりしなければならないなど、手続きに非常に手間と時間がかかること、相続人が複数いる場合には必ず全員で手続きをしなければならないことです。

Q:相続放棄とは。

A:被相続人の財産を放棄し、一切の財産を相続しない方法です。

被相続人の遺産よりも借金の方が多い場合、この方法を取ります。相続放棄の手続きは、相続人が被相続人の死亡を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、それが認められれば相続放棄した人は初めから相続人ではなかったことになります。そのため、共同相続人の一人が相続放棄をすると、他の相続人の相続分が増加することになります。

第1順位の相続人が相続を放棄した場合は、第2順位、第3順位へと相続人が代わりますので誰も相続を希望しない場合には、順次相続放棄をする必要があります。

 

Q:相続放棄をしましたが、財産は誰が管理するのでしょうか。

A:新たな相続人が管理できるようになるまで放棄した方が管理する必要があります(民法940条)。

 

 

Q:相続開始から3か月を過ぎてしまいましたが、相続放棄できるでしょうか。

A:例外的にできる場合があります。

相続放棄は原則として相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。これを熟慮期間といいます。

この熟慮期間については相続人が複数いる場合には、各相続人について個別に進行します。

相続開始をしったときとは、被相続人の死亡の事実及び自己が法律上相続人となった事実を知った時から起算すべきとされます。

もっとも、相続財産が全く存在しないと信じるについて相当な理由がある場合には、熟慮期間は相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したとき、または通常認識しうべき時から進行します(最高裁昭和59年4月27日判決)。

そのため、亡くなった方の生活歴や相続人との関係など諸事情によっては相続開始から3か月を過ぎても相続放棄できる場合があります。

 

Q:法定単純承認とは何ですか。

A:相続人が相続財産の全部または一部を処分すると単純承認したものとされ(民法921条1号)、相続放棄できなくなることをいいます。

「処分」とは財産の形状、性質を変える行為を指し、相続財産の売却といった法律行為だけでなく、相続財産である建物の取り壊しといった事実行為も含みます。相続財産から葬儀費用を支払うことは「処分」にはあたりません。

もっとも、「保存行為」に該当する場合には「処分」にはあたりません

「保存行為」とは、財産の保全すなわち財産の現状を維持するに必要な行為をいいます。例えば弁済期の到来した相続債務の支払いや腐敗しやすい物の処分は保存行為に該当します。また、相続財産である債権について、請求や催告をすることは時効中断効があるので保存行為にあたります。もっとも、債権を取り立てて収受領得した場合は「処分」にあたります(最高裁昭和37年6月21日)。

 

Q:亡くなった父の死亡生命保険金を受け取りました。相続放棄できますか。

A:できます。

生命保険は、保険契約上相続人が受取人に指定されている場合は、相続人固有の財産となるので、生命保険金を受け取っても「処分」にはあたらず、相続放棄できます(最高裁昭和40年2月2日)。

 

Q:亡くなった母の形見分けをしましたが、その後でも相続放棄できますか。

A:できる場合とできない場合があります。

相続人が相続財産の全部または一部を処分すると単純承認したものとされ(民法921条1号)、相続放棄できなくなります。

形見分けが「処分」に該当すると相続放棄できなくなります。

例えば、和服15枚、洋服8着、ハンドバッグ4点、指輪2個を相続人の一人に形見分けした事例で、「処分」にあたるとした裁判例があります(松山簡裁昭和52年4月25日)。

一方で、交換価値を失う程度に着古した上着とズボンを他人に贈与した事例で、「処分」にあたらないとした裁判例があります(東京高裁昭和37年7月19日)。

 

Q:相続財産から葬儀費用を支払っても相続放棄できますか。

A:できます。

「被相続人に相当の財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない」として「処分」にあたらないとし、墓石や仏壇の購入費用の支出も「処分」にあたらないとした裁判例(大阪高裁平成14年7月3日)があります。

 

Q:亡くなった父の借金を自分のお金で返済しました。この場合も相続放棄できますか。

A:できます。

自分のお金で返済した場合、「相続財産」を「処分」したことはならないので、相続放棄できます(福岡高裁高宮崎支部平成10年12月22日)。

 

 

Q:一旦した相続放棄は撤回できますか。

A:相続放棄の申述が家庭裁判所に受理された後では相続放棄の撤回はできません(民法915条1項)。一方、家庭裁判所に申述が受理される前であれば撤回できます。

 

Q:亡くなった父には多額の負債があると思い相続放棄したのですが、実は負債は思っていたほどありませんでした。相続放棄の取消ができるでしょうか。

A:民法の各規定に該当すれば取り消すことができます。

民法919条2項では「第1編(総則)及び前編(親族)の規定により・・・取消しをすることを妨げない」としています。

そのため、例えば、詐欺・強迫により相続放棄した場合、成年被後見人が自ら相続放棄した場合、後見監督人がある場合で後見人がその同意を得ずに相続放棄した場合等には取り消すことができます。

 

Q:父が亡くなりました。相続人は兄と妹と私です。兄に全部相続してもらおうと思い、私と妹が相続放棄しましたが、兄も相続放棄してしまいました。そのためほとんど交流のなかった叔父が相続人となってしまいました。相続放棄の無効を言えるでしょうか。

A:相続放棄が錯誤によりなされた場合は無効となります。

相続放棄が錯誤により無効になる場合があることは最高裁判所の判例でも認められています(最判昭和40年5月27日判決)。

もっとも、他の相続人が相続放棄するとの期待のもと相続放棄したところ、他の相続人が相続放棄しなかったということは動機の錯誤にすぎないとされています(前掲最高裁判決)。

動機の錯誤の場合、動機が意思表示の内容として相手方に表示していなければ無効にはなりません。

無効を認めた事例として、「動機が相続放棄の手続において表示され、それにより受訴裁判所はもとより当該相続放棄の結果反射的に影響を受ける利害関係者にも知り得べき客観的な状況が作出されている場合」に無効とした裁判例があります(東京高裁昭和63年4月25日判決)。

そのため、上記の要件を充たす場合には相続放棄の無効を言うことができます。

 

Q:相続放棄の無効はどのような手続で主張すればよいのでしょうか。

A:訴訟等で主張することになります。

相続放棄が無効であるという場合、無効であることを前提にして遺産についての持ち分を確認する訴訟や移転登記を求める訴訟を提起することになります。相続放棄が無効であり被相続人の債権を相続したとして債務者へ債権の履行を求める訴訟を提起することも可能です。

なお、相続放棄の無効の確認を求める裁判は起こすことはできません(最高裁昭和30年9月30日判決)。

 

Q:他の相続人に、生前に相続放棄をしてもらいたいのですが、可能でしょうか。

A:生前に相続放棄はできません。

生前に相続放棄することはできません。生前に放棄しますとの書類に署名している場合も散見されますが、法的な意味での相続放棄にはあたりません。

これに対して遺留分については生前に放棄することができます。この場合は家庭裁判所の許可が必要となります。

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