日本の相続税ガイド

はじめに:知っておくべき日本の相続税

日本における相続税は、亡くなった方から財産を受け継いだ個人に課される国税です 。2015年の税制改正により基礎控除額が引き下げられたため、以前よりも多くの中間層家庭が相続税の対象となっています。相続に直面している方も、将来のために備えたい方も、この制度を理解することは非常に重要です。

 

2015年の相続税政策の転換は、税の適用範囲が広がり、これまで相続税を意識する必要のなかった多くの中間所得層にも影響を与えるようになったことを示唆しています。これは、相続税が単に富裕層だけの問題ではなくなったことを意味します。日本の制度は、遺産そのものではなく、財産を受け取る人に課税することに重点を置いています。したがって、相続税の負担は、相続した財産の分け方や相続人の数によって個別に計算されるため、法定相続人の概念とその取り分を理解することが不可欠となります 。

相続税(相続税)とは?

定義と目的

相続税は、人が亡くなった際にその財産が相続または遺贈によって移転することに対して課される税金です。この税の目的は、富の再分配や経済格差の是正など、社会的な公平性を促進することにあります。日本においては、相続税は国税として扱われます。

納税義務者

相続税の納税義務は、一定の基準を超える財産を相続または遺贈によって取得した人に発生します。納税義務者は、相続または遺贈により財産を取得した時点で日本に住所があるか、過去10年以内に日本に住所があった期間があるかなどによって、「無制限納税義務者」と「制限納税義務者」に区分されます。

 

「無制限納税義務者」は、日本国内だけでなく国外にある財産についても相続税が課税されます。具体的には、被相続人または相続人が死亡時に日本に住所を有しており、相続人が過去10年以内に日本に住所を有していた場合などが該当します。一方、「制限納税義務者」は、相続または遺贈によって取得した財産のうち、日本国内にあるものについてのみ相続税が課税されます。例えば、相続人が日本に住所を有していた期間が過去15年以内で10年以下の外国人などが該当します。日本に住んでいる外国人や、日本の財産を相続する非居住者であっても、相続税の納税義務が生じる可能性があることに注意が必要です。

 

日本の相続税における居住ルールは複雑であり、特に海外在住者にとっては税の範囲に大きな影響を与える可能性があります。無制限納税義務者と制限納税義務者の区別、それぞれの基準となる居住期間やビザの種類を理解することは、相続税の納税義務を判断する上で非常に重要です。日本の相続税の目的は、単なる税収の確保にとどまらず、経済格差の是正や富の再分配といった社会的な目標も含まれています。この根底にある原則が、相続財産の価値が高いほど税率が高くなる累進課税制度に表れています。

相続財産の解読:相続税の対象となるもの

広範な範囲

原則として、亡くなった方が死亡時に所有していた金銭的価値のあるすべての財産が相続税の対象となります。

具体例

  • ・金融資産: 現金(タンス預金を含む)、預貯金、株式、投資信託、債券、電子マネー、暗号資産など。
  • ・不動産: 土地、建物(未登記のものや海外の不動産を含む)など。
  • ・動産: 貴金属、宝石、骨董品、家具、自動車、ゴルフ会員権、著作権、特許権など。
  • ・貸付金・売掛金: 他人に貸したお金、事業における未回収の売上金など。
  • みなし相続財産(みなしそうぞくざいさん)

  • ・生命保険金のうち、非課税限度額(500万円 × 法定相続人の数)を超える部分。
  • ・退職手当金、功労金などのうち、非課税限度額(500万円 × 法定相続人の数)を超える部分。
  • ・相続により取得した保険契約や定期金に関する権利。
  • 生前贈与の影響

  • ・相続開始前7年以内(2024年1月1日以降、3年から延長)に行われた贈与は、相続財産に加算されます(生前贈与加算)。
    ・相続時精算課税制度(そうぞくじせいさんかぜいせいど)を適用して行われた贈与。
  • 非課税財産(ひかぜいざいさん)

  • ・墓地、墓石、仏壇など日常礼拝に使うもの(投資目的のものは除く) 。
  • ・弔慰金、花輪代など、社会通念上相当と認められる金額。
  • ・相続税の申告期限までに、国や地方公共団体、特定の公益法人などに寄付した財産。
  • ・心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利。
  • 例:

    田中さんが亡くなり、5000万円の自宅、3000万円の預貯金、2000万円の株式、そして受取人が妻である1500万円の生命保険を残しました。田中さんは死亡する2年前に息子に500万円を贈与しています。

    課税対象となる財産は、自宅(5000万円)、預貯金(3000万円)、株式(2000万円)、そして生命保険金の非課税限度額を超える部分(該当する場合)。2年前に贈与した500万円も相続財産に加算されます。

 

課税対象となる財産の定義は広く、直接所有していた財産だけでなく、死亡によって発生する給付金なども含まれるため、「みなし相続財産」を包括的に理解する必要があります。死亡保険金や退職金のように、従来の相続財産には含まれない資産も、相続税の対象となる「みなし相続財産」として扱われることは、これらの非伝統的な資産を評価する際に注意すべき点です。生前贈与の加算期間が7年に延長されたことは、直前の贈与による税金回避策をより困難にすることを意味する規制の強化を示唆しています。3年から7年へのこの延長は、相続税の対象となる生前の資産移転をより多く捉え、短期的な贈与による税金回避の効果を低下させるための立法措置です。

相続税の計算:ステップバイステップガイド

累進課税制度(るいしんかぜいせいど)

  • 日本は、相続財産の価値に応じて税率が上がる累進課税制度を採用しています 。
  • 相続税率表
    法定相続分に応ずる取得金額(万円) 税率 控除額(万円)
    1,000万円以下 10% 0
    1,000万円超~3,000万円以下 15% 50
    3,000万円超~5,000万円以下 20% 200
    5,000万円超~1億円以下 30% 700
    1億円超~2億円以下 40% 1700
    2億円超~3億円以下 45% 2700
    3億円超~6億円以下 50% 4200
    6億円超 55% 7200
  • 具体的計算

  • 1.課税対象となる財産の総額を決定する: みなし相続財産や適用される生前贈与を含め、すべての課税対象財産の価値を合計します。
  • 2.基礎控除(基礎控除)を計算する: 計算式:3000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)。
  • 3.課税遺産総額を計算する: 課税対象となる財産の総額から基礎控除額を差し引きます。
  • 4.法定相続人に割り当てる(仮定): 課税遺産総額を、法定相続人の法定相続分に応じて分割します。
  • 5.各相続人の税額を計算する(仮定): 表から該当する税率を各相続人の仮定上の取り分に適用し、控除額を差し引きます。
  • 6.相続税の総額を計算する: すべての法定相続人の仮定上の税額を合計します 。
  • 7.実際の納税義務を分配する: 課税対象財産の実際の取得割合に応じて、相続税の総額を実際の受取人に分配します 。
1 甲さんが亡くなり、課税遺産総額が1億5000万円、法定相続人が3人(配偶者と子供2人)でした。

  • ・基礎控除:3000万円 + (600万円 × 3) = 4800万円。
  • ・控除後の課税対象額:1億5000万円 - 4800万円 = 1億200万円。
  • ・仮定上の取り分:配偶者(50%)= 5100万円、子供1(25%)= 2550万円、子供2(25%)= 2550万円。
  • ・仮定上の税額(表を使用):配偶者(20% – 200万円)= 820万円、子供1(15% – 50万円)= 332.5万円、子供2(15% – 50万円)= 332.5万円。
  • ・税額合計(仮定):820万円 + 332.5万円 + 332.5万円 = 1485万円。
  • ・実際の納税額は、実際の遺産分割に応じて分配されます。
  • 例2乙さんが亡くなり、課税遺産総額が8000万円、法定相続人が2人(子供2人)でした。

    • ・基礎控除:3000万円 + (600万円 × 2) = 4200万円。
    • ・控除後の課税対象額:8000万円 - 4200万円 = 3800万円。
    • ・仮定上の取り分:子供1(50%)= 1900万円、子供2(50%)= 1900万円。
    • ・仮定上の税額:子供1(15% – 50万円)= 235万円、子供2(15% – 50万円)= 235万円。
    • ・税額合計(仮定):235万円 + 235万円 = 470万円。
  • 日本の相続税の計算は、単純に遺産総額に税率をかけるのではなく、法定相続分に応じた仮定の取得金額に基づいて税率が決まるため、複雑なプロセスとなります。課税遺産総額が同じであっても、法定相続人の数によって基礎控除額が変動し、結果として相続税額が変わることがあります。法定相続人の数が多いほど基礎控除額が増え、課税対象額が減るため、相続税額が軽減される可能性があります。
  • 誰が相続するのか?法定相続人の理解

  • 定義

  • 法定相続人とは、有効な遺言書がない場合に、日本の民法に基づいて遺産を相続する法的権利を有する人のことです。
  • 相続順位

  • • 配偶者: 常に相続人となり、他の法定相続人と共に相続します。
    • 第一順位: 子供(死亡している場合はその直系卑属である孫など – 代襲相続)。
    • 第二順位: 親(死亡している場合はその直系卑属である祖父母など)。
    • 第三順位: 兄弟姉妹(死亡している場合はその子供である甥姪など)。
  • 配偶者は常に相続人となり、上位の順位の相続人がいる場合、下位の順位の人は相続権を持ちません(配偶者を除く)。
  • 法定相続分

  • 法定相続分は、法定相続人の組み合わせによって異なります。
    • • 配偶者と子供:配偶者1/2、子供1/2(子供が複数いる場合は均等に分割)。
    • • 配偶者と親:配偶者2/3、親1/3(親が複数いる場合は均等に分割)。
    • • 配偶者と兄弟姉妹:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹が複数いる場合は均等に分割)。
    • • 子供のみ:子供100%(子供が複数いる場合は均等に分割)。
    • 例:

      丙さんが亡くなりました。妻と2人の子供がいます。法定相続人は妻と2人の子供です。妻の法定相続分は1/2、各子供の法定相続分は1/4です。

      法定相続人とその順位、法定相続分の概念は、日本の相続税を計算する上で基本となります。これらは、基礎控除額(法定相続人の数に依存)と、各相続人の法定相続分に基づいて相続税率を適用するためのその後のステップの両方を決定するためです 76。法定相続分は遺産分割の指針となりますが、相続人全員の合意があれば、実際にどのように遺産を分割するかは法定相続分と異なる場合があります。ただし、税額計算は依然としてこれらの法定相続分に依存します。

    • 税制上の救済:相続税を軽減するための控除と特例の活用

    • 基礎控除(基礎控除)

    • 計算式:3000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)。相続人の数に応じた基礎控除額の例:相続人1人=3600万円、相続人3人=4800万円。相続放棄した相続人も、基礎控除額の計算においては法定相続人の数に含めます。

      配偶者の税額軽減(配偶者の税額軽減)

    • 配偶者は、1億6000万円、または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで、相続税を支払うことなく相続できます(税務申告が必要)。例:課税対象となる財産の総額が3億円で、配偶者の法定相続分が1億5000万円の場合、配偶者はこの金額に対して相続税が発生しません。
    • 生命保険金の非課税枠(生命保険金の非課税枠)

    • 法定相続人が受け取った生命保険金には、500万円 × 法定相続人の数の非課税限度額があります 。例:法定相続人が3人の場合、生命保険金の非課税限度額は500万円 × 3 = 1500万円です。生命保険金の総額が2000万円の場合、500万円が課税対象となります。
    • その他の控除と税額控除

    • 未成年者控除(未成年者控除)、障害者控除(障害者控除)、外国税額控除(外国税額控除)などがあります。
    • 特別な控除

    • 小規模宅地等の特例(しょうきぼたくちとうのとくれい)は、被相続人の居住用や事業用の宅地等の評価額を最大80%減額できる制度です。 
    • 配偶者の税額軽減は、日本の相続税法において非常に重要な規定であり、生存配偶者を即時の経済的困難から守るように設計されています。1億6000万円または法定相続分のいずれか多い金額までという高い限度額は、生存配偶者の経済的安定を確保することに重点を置いた政策を示しています。この控除により、配偶者は相続税の納税義務を負わないことがよくあります。生命保険金の非課税枠は、遺族にとって重要な給付であり、死亡後の当面の経済的必要性を認識し、一定の金額の経済的支援を非課税で相続人に渡すことを可能にします。法定相続人の数に連動したこの非課税限度額の計算式は、生命保険が死亡後の経済計画において果たす役割を明確に示しています。
    • 申告と納付の手続き

    • 申告期限(申告期限)

    • 相続税の申告書は、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内に提出する必要があります。期限が土日祝日に当たる場合は、翌営業日が期限となります。相続人が死亡の事実を知った日が遅れた場合など、10ヶ月の期間の起算日が異なる特別なケースもあります。
    • 提出先

    • 申告書は、被相続人の住所地を管轄する税務署(税務署)に提出します。
    • 必要書類

    • 一般的な必要書類には以下のようなものがあります。
      • •被相続人の死亡証明書。
      • •被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)および相続人全員の戸籍謄本。
      • •相続人全員の住民票(マイナンバー記載のもの)。
      • •相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議に関わる場合)。
      • •遺言書(存在する場合)。
      • •遺産分割協議書(該当する場合)。
      • •財産の評価に関する書類(不動産、金融資産など)。
      • 納付期限(納付期限)

      • 納付期限は申告期限と同じで、被相続人が死亡した日の翌日から10ヶ月以内です。
      • 納付方法

      • •金融機関または税務署での一括納付(納付書と現金) 。
        • クレジットカードによるオンライン納付(手数料がかかる場合があります) 。
        • コンビニエンスストアでの納付(30万円以下の金額、専用バーコードが必要) 。
        • ダイレクト納付(ダイレクト納付) 。
        • インターネットバンキング 。
        • キャッシュレス決済 。
        • 延納(分割払い):一定の要件(相続税額が10万円を超える、一括納付が困難、担保の提供が必要な場合が多い)と申請手続きがあります 。
        • 物納(現物納付):延納も困難な場合に限られ、特定の種類の財産のみが認められます 。
      • 期限遅延または不履行の影響

      • 期限までに申告または納付しなかった場合、無申告加算税、過少申告加算税、延滞税などのペナルティが課される可能性があります 。日本の相続税の申告と納付の10ヶ月という期限は比較的短いため、相続人は迅速な行動と慎重な計画が求められます 。この短い期間内に、相続人は遺産の評価、法定相続人の確定、資産の評価、申告と納付に必要な書類の準備を迅速に行う必要があり、ストレスの原因となる可能性があります。現金一括納付が原則ですが、延納や物納が利用できることは、納税者が流動性問題に直面した場合に一定の柔軟性を提供します。ただし、これらの代替手段には特定の要件と制限が伴います 。これらの選択肢の存在は、税務当局が相続人の潜在的な経済的制約を認識していることを示唆していますが、厳しい条件は、これらの選択肢が容易に利用できるものではないことも示唆しています。
      • 賢い戦略:相続税対策

      • 生前贈与(生前贈与)

      • 年間110万円までの贈与は贈与税がかかりません(暦年贈与) 。死亡前7年以内の贈与は相続財産に加算されます(生前贈与加算) 。相続時精算課税制度(相続時精算課税)も贈与の選択肢の一つです 。
      • 生命保険

      • 法定相続人が受け取る生命保険金には非課税限度額があります(500万円 × 法定相続人の数) 。生命保険は、相続税の支払いのための流動資金を提供できます
      • 不動産

      • 不動産は、現金に比べて相続税評価額が低くなることが多いです。賃貸不動産の購入や建設は、課税対象額を減らす可能性があります 。小規模宅地等の特例の活用も重要です。
      • その他の戦略

      • 信託の設定も遺産計画の一環として検討できます。生前贈与、生命保険、不動産投資などの戦略的な活用は、将来の相続税負担を大幅に軽減する可能性があります 。特に、生前贈与を早期から計画的に行うことや、生命保険を納税資金として活用すること、不動産の特性を活かした評価額の圧縮などが重要となります。不動産は、その評価方法が市場価格よりも低くなる傾向があり、小規模宅地等の特例などの適用を受けることで、さらに税負担を軽減できる場合があります。
    • 留意すべき重要な点と潜在的な落とし穴

    • 正確な資産評価

    • すべての資産、特に不動産(路線価方式や倍率方式を利用)や非上場株式の正確な評価が重要です。専門家による鑑定が必要となる場合もあります。
    • 2割加算

    • 配偶者及び一親等の直系血族(代襲相続人となった孫、直系卑属を含む)以外の人が遺産を取得した場合、相続税額が2割加算されることがあります。被相続人の養子は一親等の血族であるため2割加算にはなりません。しかし、被相続人の孫が養子(いわゆる孫養子)の場合、その孫が代襲相続人になっている場合を除き、2割加算となりますので注意が必要です。
    • 二次相続(二次相続)

    • 生存配偶者が亡くなった際の、次世代への相続税の影響も考慮する必要があります。配偶者控除の喪失や、相続人の数の減少による基礎控除額の減少などが影響します。
    • 専門家への相談

      • 相続税関連の規制を遵守しない場合、例えば不正確な評価や期限内の申告の不履行は、多額のペナルティや利息につながる可能性があります。弁護士や税理士などの専門家に、個々の状況に合わせたアドバイスを求めることを強くお勧めいたします。 
      • 当事務所では弁護士による相談及び協力関係にある税理士へのご紹介を行っていますので、お気軽にご相談ください。
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