【Q&A】認知症の親を囲い込まれています。どうしたらよいでしょうか。
認知機能の衰えた親を一部の親族が管理下において、他の親族との交流や接触を遮断することがあります。親の財産を隠れて使い込みため、あるいは他の親族の悪口を吹き込むため、といった目的で行われることがあります。
逆に、他の親族に虐待されている疑いがあり、そこから救出する目的で行われる場合もあります。
囲い込みの方法としては、自分の自宅で同居させたり、介護施設に入所させて施設名を秘匿したり、面会を拒否するよう施設に依頼する、といった方法がとられます。
このような場合、次のような対応策が考えられます。
1 囲い込みを行う親族との協議・調停
囲い込みを行っている親族と面会を認めるよう協議することが考えられます。協議ができない場合は、家庭裁判所に親族関係紛争調停を申し立てることも考えられます。
もっとも、これらは相手が応じない場合には強制することはできません。
2 成年後見人選任の申立て
囲い込まれた高齢者を被後見人とする成年後見の申立てをすることが考えられます。後見が開始され、後見人が選任されれば後見人による財産管理がなされ、財産の使い込み等を防止することができます。また、被後見人による遺言書の作成も条件が厳しく(民法973条)、囲い込みをしている親族に有利な遺言の作成も困難になります。
もっとも、囲い込みをしている親族の協力が得られないと、判断能力の調査等、後見人選任の手続が事実上不可能である場合もあります。
3 面会妨害禁止の仮処分の申立て
親族間での協議や調停、成年後見申立てが功を奏さない場合、囲い込みを行っている親族や介護施設に対して面会妨害禁止の仮処分の申立てを行うことが考えられます。
「子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者は両親に面会をする権利を有する」とされています(横浜地裁平成30年7月20日決定)。
その上で、「両親が現在入居している施設に入居するに当たり債務者が関与していること、債務者が債権者に両親に入居している施設名を明らかにしないための措置をとったこと、債権者が両親との面会に関連して、家庭裁判所に親族間の紛争調整調停を申し立てる方法をとってもなお、債務者は家庭裁判所調査官に対しても両親の所在を明らかにせず、調停への出頭を拒否したこと、本件審尋期日においても、債務者は、債権者と両親が面会することについて協力しない旨の意思を示したことが認められる。これらの事情を総合すると、債務者の意向が両親の入居している施設等の行為に影響し、債権者が現在両親に面会できない状態にあるものといえる。また、債務者の従前からの態度を考慮すると、上記の状況が改善する可能性は乏しいものといえ、今後も、債務者の妨害行為により債権者の面会交流する権利が侵害されるおそれがあるものといえる。なお、債務者は、両親の意向を尊重しているだけで、債務者が債権者と両親との面会を妨害している事実はないなどと主張するが、前記のとおり、債務者の行為が、債権者が両親と面会できない状況の作出に影響していることは否定できない。以上によると、債権者が両親に面会することにつき、債務者の妨害を予防することが必要であることから、本件保全の必要性も認められる。」として、仮処分命令の発令が認められました(前記横浜地裁判決)。
仮処分命令発令後も面会の妨害が続く場合は、間接強制の申立て(面会を妨害している間、1日あたり○○円支払えというもの)をして、面会の実現を図ることになります。
4 囲い込みを理由とする慰謝料請求
囲い込みにより面会や交流の機会が奪われていることを理由として慰謝料を請求することが考えられます。
「親と面会をし、交流をしたいという子としての素朴な感情、又は自由に親と面会をし、交流をするという利益は、それ自体が法的な保護に値するということができる(これに反する被告らの主張は採用することができない。)から、合理的な理由もないのに、親と会って交流をするという子の機会を奪い、同感情等をいたずらに侵害することは、社会的相当性を逸脱するものとして、不法行為を構成するものと解すべきである。」とされています(東京地裁令和元年11月22日判決)。
その上で、姉妹の一部が母親を自宅で生活させ、または施設に入所させ他の姉妹が面会、交流する機会を6年以上にわたり奪ったという事案で、「被告らそれぞれがBの任意後見人として、Bの身上看護について責務を負うほか、その職務の遂行に当たって一定の裁量を有していることを考慮しても、平成24年11月29日以降の長期にわたり、被告らが原告とBとの面会を拒絶等していることは、合理的な理由もないのに、親と会って交流をするという機会を原告から奪い、親と面会をし、交流をしたいという法的な保護に値する子としての原告の感情等をいたずらに侵害するものであるから、不法行為を構成するといわざるを得ない」として、慰謝料110万円が認められました。
5 囲い込みに対し、面会を強行することの可否
囲い込みをしている親族宅や介護施設等で面会を強行して立ち入ることは建造物侵入罪(刑法130条)や不法行為(民法709条)に該当する可能性があり、控えるべきと考えます。